初めてのオフ会

みなさんはオフ会って単語、知ってます?インターネットの世界で知り合った人と現実世界で会って、くんずほぐれつセックスする会合のことなんですけど。

そんなオフ会というものに、僕が初めて参加した時のことを書きたいと思う。ひどく昔のことで、あまり細かく思い出すことはもうできないのだけれど。

オフ会をしようと思ったきっかけから始まって過程、事の顛末までの始終全てが痛々しいというか気持ち悪いんですけど、これが現実。現実っていうのは、時に目を背けたくなるようなものなんだ……。

 

 

あれはもう10年以上も前の話になる。地元の同級生よりも一年遅く大学に入学し、東京に住み始めたばかりの頃だ。
田舎から上京してきたばかりの僕は右も左もわからず、朝から晩までを一緒に過ごせるような友達もいなくって。ってまあその後5年間そんな友達は一度もできなかったし、10年経った今だっていないんですけど。ハハっ、笑っちゃうなあ。笑いすぎて涙が出てきた。

 

っていうか、僕ったらものすごい人見知りじゃないですか。10代20代の頃なんて初対面の人とは、一体どんな会話をしたらいいかわからなくて、俯いちゃって、「家に帰ったらどのエロ動画でシコろう……この前のパイパンのやつは駄目、全然シコれなかった。ケツが汚すぎた。しかも剃り跡が汚い。あと肛門の左側にあったホクロが気になって仕方なかった。」みたいな感じに自分の世界に籠もってしまうくらい人見知りでさ。

 

とは言えどですよ、大学生ですから。十代、あまりにも若すぎた。

なんてったって大学生ですから、それなりに夢も希望もふくらむわけですよ。もうおちんちんなんてパンッパンに膨らんじゃってさ。え?大丈夫?これ、僕このままそらをとぶピカチュウみたいに宙に浮いていかない?って心配になるくらい。ピカピー!ほうでん!ビュルルル!!

ですから大学に入りたての頃は「おっしゃー!これが大学や!ユニバアシテーや!わしもこれでセックスし放題や!!!まずは、関西弁や!関西という異国の地からやってきた関西弁とかいう日本語とは違う何か別の言語を使う田舎の生娘とセックスや!!!!エスニックセックスや!!!!」と意気込んでおりました。
しかし5月、6月と月日がたてどもセックスはおろか友達さえできる気配がないというのが現実。もうそういう次元ではなく、誰とも会話することなく学校と自分の部屋を往復するだけだった。

次第に、講義にも行かず毎日引きこもるようになっていった。

そして気がついたらいつの間にか、あまり詳しくは存じ上げないのですが、2ちゃんねるっていうんですか?あの気持ち悪い人たちが集う掲示板に朝から晩まで入り浸っていた。気づいた時には僕の人生は既に音を立てて半ば倒壊していた。

毎日毎日朝から晩まで「ちょwwwwwwwwwwwwまんまんwwwwwwwwwwwくぱぁwwwwwwwwwwwwwwwしろしwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
とか掲示板に書き込んでたんですよ。信じられます?マジでタイムスリップして、お前はっ!お前はっ!お前はーー!!!って言いながら何回も何回も鈍器で殴り続けて撲殺したい。

2ちゃんねるなんて本当に低俗ですよ。これを読んでいる皆さんのように、他人を叩くことにしか楽しみを見出せない方々が集まる場所ですから。本当に最低だ!(janeの更新ボタンをクリックしながら)

 

当時の僕は2ちゃんねるに入り浸りつつも、知り合いが未だにできていないという現実からは目をそらし続け、「ぶっちゃけ東京きた時点でセックスとか楽勝っしょ、勝ち組だな。」と構えていた。

だって東京じゃん。女子高生の乳を揉みしだいても許される乗り物があるって聞いてたし。けどね、全国のみなさん、そんなもの存在しないんですよ。馬鹿でしょ。
兎にも角にも、東京はセックスし放題、だから僕だってできるはず。そう思ってた時期が間違いなく僕にはあった。

 

カーテンは締め切り、陽は差すことがなく、パソコンのモニターだけが爛々と光っている部屋に籠もり、どうやったらセックスできるか。そればかりを考えていた。考え抜いた。……っていうか順序的に言うと、一回抜いて冷静になってから考えたので、つまり抜き考えたが正しいんですけど、結果としてたどり着いた着地点がオフ会だった。

よく知らんけどさ、インターネットって友達いないやつばっかりだし、会えばもうそのままSとNの磁石よろしくセックスできるだろ、それがインターネットだろという脳みそが焼き付けを起こしたとしか思えない意味不明な理論のもと、オフ会に参加しようと決意。しかし肝心のオフ会が開催されるようなコミュニティには属していない。

その結果、突発OFF板?っていうんですか?今はそういうものがあるのかどうか知りませんが、当時はそんなようなものがありまして、そこで行われているオフ会に参加すればよいのだという結論にたどり着いた。

 

例えば「今○○にいます、暇な人オフ会しませんか」みたいな書き込みがあったら、そこを見ていて参加したい人はそれにレスして、突発的にオフ会をするっていうシステムだったかな……そんな感じだった気がする。

当時の僕なんてこれを見つけてそれはもうウッキウキですよ。これやと。これや、まるでわしのための板や、わしがセックスするために存在するツールやと。

 

そしてある日、僕は意を決して、書き込みを行った。そもそも本当にたったこれだけで見ず知らずの人と会うオフ会というものが成立するのだろうかと、相手が誰かもわからないのに来る人なんているんだろうかと半ば疑問に思いながら。

「今暇なんで○○駅近辺でオフしたいです^^ メールください^^」と。名前欄に自分のメールアドレスを添えて。

キッモ!!!!!!!!!

 

数十分後には幸か不幸か僕のもとに一通のメールが届いていた。

それは、今から○○の近くにいるんですけど、これからオフしますか?といったような内容のメールだった。
この時点で僕は、完全に受精した気になっていた。この時の僕の気持ちの高まり、顔も知らない見ず知らずの人とセックスをする気持ち、ええ、皆さんにはわからないでしょう。まあ僕もわかりませんが。

脳の中でセックスという文字が満開に咲き乱れてはいたものの、一応セックスするにあたってある程度性別的なものは女性であることのほう好ましいとされているで、性別を確認することにした。
でも、いきなり女性ですか?と聞くのは下心が見えすぎてアウトじゃないですか。じゃあ、どうしたら下心を悟られずに性別を確認することができるか……。

当時の僕がとった行動が、こちら!!!
「うほwwwwホモセックスオフwwwwwwwwアッー!wwwww」

殺してくれ!!!!!!!!! !!!!!!!!

わかってる、わかってるから何も言わないでくれ。本当に心苦しい。

もう十分すぎるほど罪は償ったんだ。皆様それぞれ思うところはあると思うが、この頃の僕はもう居ないし、どうか赦してほしい。

こうやってメールすると、もし相手が女性だった場合「男じゃねーよwww」とか、「ちんちんついてないですサーセンwwwwww」みたいな内容のメールが返ってくるだろうから相手が男か女かわかるし、完全に下心を隠しきれているし、完璧な作戦だと、当時の僕はそう思っていた。実際の所女の人がどう感じるかは知らないが、あまりにも下衆で気持ち悪すぎる手法だ。いや、マジで恥ずかしいよ、これは。


そんな僕の卑しい期待通りに、私女だけどといった旨のメールが返ってきて僕は光よりも射精するスピードよりも速くに何時にどこでしますか?という返信をしてオフ会の約束をこぎつけた。

ああ……いよいよ人生初のオフ会だ。しかも相手は女性。ええ、これはセックスしかないでしょう。ていうかセックス以外の答えを知りたい。セックスの神様が俺にセックスをしろとセックス語で話しかけてくる、そう確信して止まない僕はとても浮かれていた。3回ぐらい歯を磨いた気がする。でも息は臭かった。それは今でも変わらない。
女性と1対1というサシでのオフ会。どのような方程式を当てはめてみても、イコールの先に導かれる解はセックスという四文字のみ。
ああ、僕もとうとう童貞を捨てられるんだ・・・。オフ会最高〜〜〜!オフ会ってオマンコファックの略かよ〜〜〜!そんな面持ちで待ち合わせ場所に向かった。

 

待ち合わせ場所に行くと既に女性がいた。

スケベな女じゃのう、セックスしたくてもう待ってやがるのか!?僕より早漏なやつがこの世にいるなんてなぁ!!!

否。僕が20分程遅刻をしたのだから、それもそのはずである。女性を待たすなんて最低だ。だが待って欲しい、避妊をしない方がもっと最低なんだ。そうだろう?

普段ならバスに乗って移動する程度の距離だった。僕はセックスするならコンドームを買わなければと、行きがけにコンビニで生まれてはじめてコンドームを買った。そのおかげでバスに乗車するためのお金がなかったのだ。初夏の頃、思わず足取りが軽くなるような春の陽気はすっかり消え去り、幾分か日差しが強く暑さを感じさせた。15分近く待たされた彼女はややうんざりした顔持ちで駅の前に立っていた。僕は先輩から貰った帽子をかぶっていた。コンドームにバスの乗車代を使ってしまい30分近い距離を走ったため額からは汗が伝っていた。はやる気持ちと股間を押さえることでいっぱいいっぱいだった。

 

さあ、いよいよ脱童貞をする女性との初対面。そりゃあドキドキですよ、だって初めてセックスする相手に会うわけですから、ドキドキするなって言う方が無茶だ。
「いやー、お、お、お、お遅れれちゃって、すみません、ふひ、ふふふふ、ふひひ。」
そう言いながら近づいて女性の顔を確認する。
小柄な女性だった。何歳くらいなんだろう……と思わせるあどけなさが彼女の顔には残っていたが、あまり好みというわけではなかった。それが第一印象だった。まあでも別にセックスするだけだし顔とか背とかこの際どうでもいいだろう、と自分に言い聞かせ全体に目を移す。素早くしかし舐め回すように全体を見る、目で孕ませる。
胸、二の腕、手、腰、もも、足……この間コンマ1秒。

ん?いや、待った待った待った。ちょっと待ってくれ。今、何かどこかに違和感を感じた。
足、もも、腰、手、二の腕……手……。手……。

数秒間、呼吸をするのを忘れてしまった。これが恋なのだろうか。否。

手をね、手をチラッって3回ぐらい見てみるとね、手首のところっていうんですか?もうびっくりするくらいリストカットの痕だらけなんですよ。
当時山から降りてきて、今まで火も見たことのないような田舎者だった僕は当然メンヘラなんていう言葉は知らなかったし、そういう行為をしている人を見たのも初めてだった。とにかく、何がなんだかわからず、ただひたすら、見てはいけないものを見た気がした。いきなりのジャブにしてはブローに効きすぎているってもんだ。

それでも我に返り、なんとか取り繕ってとりあえず挨拶をする、ニタニタとなんとも不気味な笑顔を浮かべながら「今日よろしくおねがいします^^」と。

しかし、そこからは例外なく人見知りっぷりを発揮してしまい、その挨拶以降黙ってただただ俯くだけだった。

だってよく考えてよ。初めてのオフ会で会う女性がリストカットの痕だらけって。いやなんなら高校時代だって数回くらいしかクラスにいる女の子と喋ったことないんですよ。その僕にはハードルが高すぎた。そこに触れていいのかわからなかったし、そもそもその行為がどういう意味を指すのかもよくわかっていなかったし。檜の棒すら持ってない状態で魔王に立ち向かえるかってんですわ。スライムに飲み込まれて遠のく意識の中チンポをシゴきながら、これってほぼ首絞めセックス……て思いながら息絶えることが関の山よ。

人間本当にどうしていいかわからない時って、ああどうしようどうしようって焦るんじゃなくて、それを通り越して脳がプツンと思考停止して、ぼーっとしちゃうってその時初めて知りました。


思考停止してずっとぼーっとしてたら、相手の女性に「どうする?」って聞かれちゃいまして。そこで初めて我に返って。でも上京してもずっと家で2ちゃんねるやってるばっかりで、どこに何があるなんて知らないからどうしていいかわからなくて、黙って俯いてしまったんですよ、また。

そしたら彼女が舌打ちしながら、じゃあちょっと気になってる居酒屋あるからそこにでも行こうかと言うので、僕はそれに同意し、二人で居酒屋へと足を進めた。

彼女の後を追ってお店に向かっている途中で段々と余裕を取り戻してきた僕は「舌打ちしてんじゃねーよ、あ?クンニされてーのか?まあでもなんだかんだいいつつも居酒屋かよ。結局セックスしたいってことじゃねーか。東京の女ってのは手が早いねえ、ヒュウヒュウ!ほな、酒飲んでとりあえず酔ってセックスですか!クゥ〜!」くらいは考えられるようになったんですが、居酒屋入って席に着いたらまたダンマリよ。クゥ〜!とは一体何だったのか。僕の馬鹿!チキン野郎!

あまりにも無言が気まずすぎて、なんとかしなきゃなあとは思うものの、どうしていいかがわからず、店内に貼ってあるメニュー眺めたり、きょろきょろ周囲を見回したり、何も変化がない携帯電話を見たりしながら、気まずい時間が30分くらい続く、目の前には不機嫌そうな女性、それはまさに地獄絵図。たまにおしぼりを自分のモモにバチンバチンって叩きつけてンッンッて一人SMとかもやってたんですけど。

 

そんな時間に耐えきれなくなったのか、彼女が急に口を開いて一言。
「君さあ……、友達いないでしょ?」
突然本当のことを言われドキッとし、なんでこの人はそんなことを知っているんだろうと疑問に思ったけど、つい下らない意地張ってしまい、「いや、友達ぐらいいますよ!少しは……。5人はいるかな〜。いる!・・・かもしれない。あはは……」なんて言ったら、そこから急になんか怒られちゃってんの。

意味わかんなくない?スラムダンク赤木晴子に「バスケットはお好きですか?」って聞かれて大好きです!!!って答えたと思ったのに次のシーンで青田と柔道着きてホモセックスしてたら、は?流川楓は?ってなるでしょ?それと同じですわ。

えっ、どういうこと?って。

僕が?いつの間にか?居酒屋で?初対面の?女の子に?お説教?
アハハハハ、おかしくない?えっ、いつからそういうお店に入ってたの?ここってSMプレイ専門の居酒屋かなにかでしょ?前でお説教してんのは店員さん?そんな、30分ひたすら怒られ続けるSMコースとか注文した記憶ないんだけど。と思ってあたりを見回したけど、全然普通の居酒屋だった。

今時初対面の人に説教かますのなんて和田アキ子ぐらいだとおもってたからそりゃあ僕もびっくりですわ。


やれあんたは落ち着きがないだの、やれあんたは挙動不審だの、やれあんたは他人と会話する気がないだの、やれあんたは他人と会話のキャッチボールができてないだの、やれあんたはコミュニケーション能力がないだの、やれあんたはTシャツがいけてないだの、やれあんたはズボンがださいだの、やれあんたは不細工だの。挙句の果てには、なんでオフ会開こうと思ったわけ?とか聞かれちゃって。

そんなん笑うしかなくないですか?予定ではセックスし終わって、彼女を腕枕して、天井の穴の数数えながら脱童貞の感傷に浸りつつ、天井の穴より彼女の穴の数をだなグヘグヘヘ1つ2つ(ここで手マン)……ってな流れで二回戦目に突入してるはずの時間なのに、現実の僕ってば女の子に居酒屋で説教カマされてるんですよ?

もうただただびっくりしちゃって、東京人ってキチガイなのかな?とか思いながら心のなかで鼻をほじりながら説教を聞いてました。

最終的には、「キミ、接客のバイトとかして、人と会話する訓練して、そういう人とまともに会話できる能力身につけた方がいいよ!まだ人生これからだから!ね?」なんて言われちゃって。

はぁ、はぁ……。って生返事してたら「私もう帰るから!」とか言われて、はい解散!っておいおいおい、スピーディーすぎるでしょ、こんなオフ会。飲み物一杯しか頼んでないんですけど!?なに?主催者が早漏だとオフ会もすぐ終わっちゃうの?ぶっ飛ばすぞ。
いやはや俺はキツキツの膣につつまれたかったんですが膣膣の狐につままれちゃったなって。何言ってるかよくわかんないんですが。

解散した後一連の流れのあまりの衝撃に、これでも飲みながら気持ちを落ち着けようと思い、コンビニで野菜生活を買い、その後我に返ってみたら大学のキャンパス内に居たこと、僕は今でも忘れられない。


解散間際に苦し紛れに年齢を聞いたら16だか17とか言ってたんですよ。そりゃあ顔もあどけねーよ。何が人生これからだよ、てめぇ年下じゃねーか。
つまるところ、16か17のリストカット痕があるタバコ吸いながら酒飲んでる女の子に居酒屋で説教されて、コミュ障を指摘されてバイトしろって言われて、僕の初めてのオフ会は幕を閉じたというわけです。

こうして今振り返ってみても、どう考えても100%僕が悪かった。圧倒的なコミュニケーション能力の欠如。自分から誘っておいて、場を盛り上げる努力もせずだんまりを決め込む。そりゃあ怒られるわ。

ただ、当時の僕は自分のコミュニケーション能力が0だということを未だ気づけておらず、あまりの衝撃に「やっぱり2ちゃんねるやってる人って頭おかしいんだ。オフ会怖……。」と思い恐れ慄くことしかできなかった。

そして僕は一つの結論に達する、そうか、セックスというのは都市伝説、学校の怪談の類のものなのだと。